佐藤 健介VIEW PROFILE →
ラピダスの2ナノ挑戦、2026年は「試作から本気」へ:日本の半導体主権を賭けた勝負
北海道千歳のラピダスは2ナノ世代の半導体量産を2027年に控え、2026年を試作ライン安定化と顧客獲得の正念場と位置づける。政府は4月に約6315億円を追加支援。AI時代の国産チップ主権を賭けた挑戦を追う。
人工知能の急速な普及がもたらす最大の物理的制約の一つが、それを支える先端半導体の安定した供給である。世界の生産が台湾に大きく依存する構図が続くなか、日本は自国の手で最先端チップを製造する能力を取り戻そうと、国家的な総力を挙げた壮大な挑戦を続けている。その最前線に立つのが、北海道を拠点とする新興企業ラピダスだ。
ラピダスの目標は単なる一企業の成長にとどまるものではない。それは、経済安全保障と技術主権という日本の国家戦略そのものを体現している。半導体を他国に依存し続けることのリスクが世界的に強く意識されるなか、国産で最先端の生産能力を確保できるかどうかは、日本の産業全体の未来を左右する死活的な問題となっているのだ。
試作から量産への正念場

同社の心臓部は、北海道千歳市に建設された統合イノベーション製造拠点、通称IIMである。ここでは2025年4月から試作ラインが稼働を開始しており、極端紫外線露光装置の設置やクリーンルームの本格運用など、最先端チップ製造に不可欠な巨大設備が着々と整えられてきたという経緯がある。まさに国産チップの司令塔だ。
技術面での大きな節目もすでに刻まれている。2025年7月には、次世代トランジスタ構造であるゲートオールアラウンド方式を用いた2ナノメートルトランジスタの動作に初めて成功したのだ。これはIBMと共同で開発した製造プロセスの成果であり、試験素子が設計通りの電気的特性を示したことは極めて重要な前進といえる。
そして2026年は、この試作ラインを安定させ、実際の顧客が本格的な設計作業に乗り出す極めて重要な一年と位置づけられている。量産開始の目標は2027年に設定されており、それまでに歩留まりを着実に高め、顧客の信頼を勝ち取れるかどうかが、この壮大な事業の成否を分ける大きな分水嶺となるだろう。
国家を挙げた巨額の支援
これほど野心的で長期にわたる事業は、一企業の資金力だけで成し遂げられるものではない。日本政府は強力な後ろ盾となっており、経済産業省は2026年4月11日、ラピダスに対して約6315億円、金額にしておよそ40億ドルにものぼる追加支援を承認した。これにより国の研究開発支援の累計はさらに大きく膨らむことになった。
この追加支援によって、日本政府によるラピダス関連の研究開発支援の累計額は、およそ2兆3500億円という途方もない巨額に達したとされる。半導体を国家の基幹産業として再興するという強い政治的意志が、こうした前例のない規模の財政投入という極めて具体的な形で、明確に示されているのである。
投じられる資金は最先端の前工程装置だけでなく、後工程と呼ばれる組み立て分野にも幅広く振り向けられている。すでに後工程のプロトタイプラインが本格的な稼働を始めており、チップレット技術やパッケージング技術の開発を担う専門組織も、いよいよ本格的な運用段階へと移行しつつあるところだという。
AI時代を見据えた戦略
ラピダスが単なる回路の微細化競争にとどまらず、AI向けの先端パッケージング技術の開発にも力を注いでいる点は見逃せない。生成AIの計算需要が爆発的に増えるなか、複数のチップを高密度に組み合わせるパッケージング技術は、システム全体の性能を左右する新たな主戦場として急速に重要性を増しているのだ。
もっとも、その道のりは決して平坦ではない。台湾や韓国の巨大企業が長年かけて築き上げてきた技術と量産ノウハウの壁は非常に高く、後発のラピダスがこれに追いつき、採算の取れる持続的な事業として確立できるかどうかには、依然として市場に慎重な見方も根強く残っているのが実情である。
それでもなお、2026年という年は日本の半導体復権にとって象徴的な意味を持っている。試作段階で得られた技術的成果を実際のビジネスへと転化できるかどうかが厳しく問われるこの一年の歩みは、AI時代における日本の技術的自立の行方を占う、極めて重要な試金石となるにちがいない。






