佐藤 健介VIEW PROFILE →
日本最大のユニコーンへ:サカナAIが挑む「進化」と効率のAI開発
東京発の基盤モデル企業サカナAIが135億円規模のシリーズBを調達し、企業価値26.5億ドルで日本最大のユニコーンに。巨大化ではなく生物からの着想と効率を武器にする、その独自路線を読み解く。
日本の人工知能をめぐる話題は、ソフトバンクとオープンエーアイの提携、AI推進法をめぐる規制、創薬へのAI応用、あるいは声優の声を守る知財問題など、実に多岐にわたっている。しかし、日本のAI産業そのものの実力と将来性を象徴する存在として、いま最も注目を集めているのが、東京を拠点とする基盤モデル企業サカナAIである。
サカナAIが特別なのは、単に有望なスタートアップだからではない。米国や中国の巨大な研究所とは一線を画す独自の開発思想を掲げ、日本という国が世界のAI競争において独自の道を切り開けるかどうかを占う試金石となっているからだ。その最新の資金調達は、この挑戦が本物であることを市場に強く印象づけた。
日本最大のユニコーンへ
その勢いを最も雄弁に物語るのが、直近の資金調達の規模である。サカナAIは、約1億3500万ドル、日本円にしておよそ135億円規模のシリーズB資金調達を実施した。これは、今年の日本国内における最大級の資金調達の一つに数えられ、同社への期待の大きさを如実に示している。
この調達によって算定された企業価値も驚くべき水準に達している。今回のシリーズBラウンドにおける調達後の企業価値は26.5億ドルとされ、これは調達前の評価額であった25億ドルからさらに上昇した形となる。数字の伸びそのものが、投資家の揺るぎない信頼を反映していると言える。
そしてこの結果、サカナAIは日本で最も価値の高いユニコーン企業の座に就くことになった。実際、同社は2026年上半期の日本のスタートアップ資金調達ランキングにおいても第一位に輝いており、名実ともに国内AIスタートアップの筆頭格としての地位を確固たるものにしている。
巨大化とは異なる哲学

サカナAIの強さの源泉は、その独特な開発哲学にある。2023年に、元グーグルの研究者であるライオン・ジョーンズ氏、伊藤錬氏、そしてデイビッド・ハ氏らによって設立された同社は、少ないデータセットでもうまく機能し、日本語と日本文化に最適化された、手頃な価格の生成AIモデルを開発することを特徴としている。
この方針は、業界の主流とは明確に異なる。同社は、生物からの着想を得た効率的なAIシステムの開発に注力しており、これは米国や中国の最大手研究所が採用する、いわゆる力任せでスケール重視のアプローチとは根本的に袂を分かつものだ。膨大な計算資源に頼るのではなく、賢い設計で勝負しようという発想である。
この違いは、日本の置かれた状況を踏まえると特に重要な意味を持つ。莫大な資金と電力を投じて超巨大モデルを作る競争では、資源に限りのある企業や国は不利になりがちだ。だからこそ、効率と独創性を武器とするサカナAIの路線は、日本が世界と戦うための現実的な戦略として大きな期待を集めている。
進化的アプローチの意味
サカナAIという社名、そして生物からの着想という言葉が示すように、同社は自然界の仕組み、とりわけ進化のプロセスに着目したモデル開発で知られている。これは、既存の複数のモデルの長所を組み合わせ、あたかも生物が世代を経て進化するように、より優れたモデルを生み出そうとする独創的な試みである。
こうしたアプローチは、単なる技術的な奇抜さではなく、実用上の大きな利点をもたらす可能性を秘めている。ゼロから巨大なモデルを一から訓練するのに比べて、既存の資産を賢く活用することで、開発にかかる時間とコストを大幅に削減できると期待されているからだ。
この独自性こそが、世界中のトップ研究者や投資家がサカナAIに注目する理由である。全員が同じ方向に突き進む巨大化競争の中で、あえて別の角度から問題に取り組む姿勢は、AI研究の多様性を保つうえでも貴重であり、思わぬブレークスルーを生む土壌にもなり得る。
今後の展望
潤沢な資金を手にしたサカナAIは、事業のさらなる拡大へと舵を切ろうとしている。共同創業者のハ氏によれば、同社は2026年に、これまで中心であった金融分野を超えて、産業、製造、そして政府といった新たなセクターへと企業向けビジネスを拡大していく計画だという。
総じて、サカナAIの躍進は、日本のAI産業にとって希望の象徴であると同時に、一つの実験でもある。効率と独創性を掲げるその路線が、巨大資本の力に真っ向から対抗できると証明できるかどうか。その答えは、今後数年の同社の歩みと、日本のAIエコシステム全体の未来を大きく左右することになるだろう。






